2013年5月26日日曜日

Jean FOLLAIN ジャン・フォラン 詩

 LAsie アジア                    JEAN FOLLAIN 1903-1971     投稿者訳 2013 

学校の窓から
アジア地図が見える 
地図の上では
シベリアもインドくらい暑い
そこを昆虫が這っていく
インダスからアムール河へ。
壁の下で 男が
空豆をモーブ色に煮込んだ
シチューを食べている
彼は厳かで
この世にただ一人     



Au pays 故郷で

みんなで田舎へ引っこむことにしたんだ
そこで いつものお婆さんが      
道ばたで編み物
母親は子どもをそっと揺すり      
いいかげんに
お黙り! お黙り!               
それから 友だちと遊べば
少女は すぐそこ!もうすぐそこ! 何度もくりかえし、
相方は いつまでも探しているから
こんなに遅くまで ・・・ああ、一日の長かったこと・・・  
                                  (ああ、長きかな人生)
じきに木の葉が 夜の黒。

 Lassiette  皿

女中の手から 滑り落ちれば
薄い丸皿 空の色
拾い集めよ 屑かけら
さても 主人の食堂では シャンデリアがざわめき
しばし止めば
古い学校のあやふやな神話が唱えられ
神まがいの名前を読み上げているのが聞こえてくる。

Plainte  ぐち

その日 女は言う、
誰か坊やをだっこして来てちょうだい
重いのよ、もう夜になるわ。
ああ、土付き野菜の頃     
葡萄酒蕪の 赤や緑
サンザシに縁取られた畑
甘んじて静まりかえっている空の下
今はもうない時間
それでも その世界は今もあって
その美しさに 見とれてしまう。


Bout du monde 世の果て

ひびわれた大地の 
世界の果てで
誰かが アルゴンヌ製の陶器に飾りつけられた花のことを話す       
花を染める赤い顔料には
王水で刻んだオランダの古いドゥカート金貨を混ぜるという。       
夜が来るのが早いからなあ、ともう一人が答える。

このあいまいな国では
時間は 走って過ぎる。

Tenir un globe 地球儀を手に                     245

住人は去り
使い込んだ鋤と 刃こぼれした熊手が
歩き慣れた獣道を
行き来することも もうないだろう
ブロンズ像の足にのせてあった地球儀を    
持って来て 少年が             
起伏する丘の方に掲げ 
くるりと回せば
秋風が 彼の細い手を迂回し
瞬間 彼は目を閉じるだろう
乾いた赤い埃が舞い上がれば


Face aux osiers     柳に向かって     
   246
裸の時だけ          
三つ編みを解くのだった       
どっしりとした 庭の柳に向かい
暗がりに 陶の肌をうかべ
蝋燭は 銅燭台に眠り
彼女は これからもずっと心を費やしていくのだろう
ときめきを胸に
風吹きすさぶ街の
城壁市場の光景とともに



Sans courage  勇気無く                             247

家に帰る者には
新たなる勇気がいるだろう
とは言えそこには時間と空間があるだけで
淡い青色の空のどこかで
階段を上りつつ
繰り返し たたき込むように聞こえるのは
「神は死んだ
 人間は もういない」
立ち止まれば沈黙に目がくらむ
顔を上げて
屋根裏部屋まで上り続けよう
ほとんどからっぽの
子どもには別だが


La CLEF かぎ      56
革製のロンデルに結わえられた
黒っぽい鍵には
日付の数字がつけられ
白夜の夜
大衆宿の釘に下げられ
眠っている男がそれをつかんだ                  
泥手袋をはめた手を                             
木の寝台から外に出して                      



LEPINGLE                       57
波に向かってそびえ立つ街の
外海では
クジラの群れが尾を
雲の下で 一斉に打ち鳴らしている
というのに  耳にとどいたのは 
留め針の落ちる音
マントルピースから
寄木細工の床の上に
もうかれこれ何年も磨かれたことのない

FOURMI NOIR.  黒蟻   くろあり        148
両手をポケットにつっこんで 若者が
くろありの世界を見ている
くろありのラッカー色の血
くろありの刺し針
くろありの幼虫は
鳴る鐘の振動に ぷるぷるふるえ
若者のバイオリンは  
ケースに横たわり
やがて夜が来て
天の絵葉書に   星を撒き散らす


FELICITE     フェリシテ  至福

どんなに小さい コップや腕のひびでも
深い至福の思い出を甦らせてくれます
物というのは有りのまま
か細い背骨をあらわにし
陽のもとに ふいに煌いたかと思えば
宵闇に 姿を消しますが いずれも
それなりに 時を満喫しているのですから
長くも儚くも

のひび 時を味わう 今昔

いかに些細な グラスのひびも 遠き思い出 寄せかえす




L'ETENDUE    広がり

けものの皮のようにつやめく
絹の帽子は
男の狭い頭のてっぺんに
ようようとのっかり
腕には女がおさまり
二人のぐるりには 石炭置き場や
山積みの土砂というような
味気ない広がりが描き込まれて行く
人生風景







Quincaillerie               JEAN FOLLAIN 1903-1971

Dans une quincaillerie de détail en province
des hommes vont choisir
des vis et des écrous
et leurs cheveux sont gris et leurs cheveux sont roux
ou roidis ou rebelles.
La large boutique s'emplit d'un air bleuté,
dans son odeur de fer
de jeunes femmes laissent fuir
leur parfum corporel.
Il suffit de toucher verrous et croix de grilles
qu'on vend là virginales
pour sentir le poids du monde inéluctable.

Ainsi la quincaillerie vogue vers l'éternel
et vend à satiété
les grands clous qui fulgurent.

Usage du Temps, Gallimard,1941



       金物屋 かなものや    
     
田舎の小売り金物屋に
男たちが ビスやナットを見つくろいにやってくる。
ごま塩頭あれば 赤毛あり
あるいは直毛 あるいは癖毛。
広い店は薄青い空気にあふれ
鉄気のにおいに娘たちの残り香がとけ入る。
そこに売られる 真っさらな 差し錠や格子の十字に
一たび手を染めれば 否が応でも 
生きる重さを感じるようになる。

かくして 金物屋は 果てしなく漂い
きらめく釘を 飽きるまで 売りさばく。 


     金物屋2 シャンソン風  

村の小売りの 金物屋 
ビスやナットを 買いに来る
ごま塩頭に 赤い髪
剛毛あれば 癖毛あり
広がる空気 薄青く
鉄の匂いに 娘らの
甘き残り香 とけいって
店に売られる まっさらな
錠や格子に 手を染めりゃ
生きる重さを 知る羽目に

さても果てなし 金物屋
今日も明日も あさっても
きらめく釘を 売りさばく


    




L’ASSIETTE

Quand tombe des mains de la servante
la pâle assiette ronde
de la couleur des nuées
il en faut ramasser les débris,
tandis que frémit le lustre
dans la salle à manger des maîtres
et que la vieille école ânonne
une mythologie incertaine
dont on entend
quand le vent cesse
nommer to
us les faux dieux.

extraits du livre Exister, (Territoire)de Jean Follain. Éditions Gallimard, 1969. Page 116


          

女中の手から 滑り落ちれば
薄い丸皿 空の色
拾い集めよ 屑かけら

方や広間では シャンデリアがざわめき
古い学校のあやふやな神話が唱えられ
しばし止めば
神まがいの名前を読み上げているのが聞こえてくる。


                                      
                                                              
  

Au pays
Ils avaient décidé de s’en aller
au pays
où la même vieille femme
tricote sur le chemin
où la mère
secoue un peu l’enfant
lui disant à la fin des fins
te tairas-tu, te tairas-tu ?
Puis dans le jeu à son amie
la fillette redit tu brûles
et l’autre cherche si longtemps
si tard – ô longue vie –
que bientôt les feuilles sont noires.


extraits du livre Exister , (Territoire) de Jean Follain. Éditions Gallimard, 1969. Page 112

Au pays 故郷で

みんなで田舎へ引っこむことにしたんだ
そこで いつものお婆さんが      
道ばたで編み物
母親は子どもをそっと揺すり      
いいかげんに
お黙り! お黙り!               
それから 友だちと遊べば
少女は すぐそこ!もうすぐそこ! 何度もくりかえし、
相方は いつまでも探しているから
こんなに遅くまで ・・・
ああ、一日の長かったこと・・・  
                    
じきに木の葉が 夜の黒。



2013年5月24日金曜日

Philippe JACCOTTET フィリップ・ジャコテ ROSSIGNOL

Et néanmoins    Gallimard 2001  p.87




ROSSIGNOL

Oiseau toujours caché,
voix qui toujours nous ignore,
comme elle ignore la plainte,
voix sans mélancolie.

Voix unie à la nuit,
voix liée à  la lune
comme à sa cible cancide
ou au bol qui la désaltère.
(Comme on l’aura poursuivie,
celle qui ne fuit que la nuit !)

Tendre fusée qui s’élève
en tournant dans l’obscur,
de toutes les eaux la plus vive,
fontaine dans les feuillages.

(Comme on l’aura regardée,
celle que ne vêt que la nuit !)

Ruisseau caché dans la nuit.










夜鳴鳥     フィリップ・ジャコテ   投稿者訳

姿を隠し 鳴く鳥よ
人を知らざる その声は
嘆きを知らぬ 鳥ゆえの
憂い哀しみ 持たぬ声

その声は 夜を一つにし
その声は 月と我を結ぶ
ま白き的を めざすのか
渇きをいやす 杯を

  ああ夜をのみ渡り行く君を
  追いかけもしたろうさ
  
闇をかいくぐり
たおやかに声を上げる火矢
誰よりもこんこんと わき出づる
草むらの泉

  ああ夜をのみ身にまとう君を
  飽かず眺めもしたろうさ
  
夜に隠れ流るる河よ  








2013年5月22日水曜日

Stéphane Mallarmé マラルメの扇

                
「扇」  Éventail                  投稿者訳

扇言葉 さながら        おうぎことばさながら
一あおぎ 空を舞い       ひとあおぎそらをまい
明日の詩は 生まれ来る     あすのしはうまれくる
君の手の 住み処より      きみのてのすみかより

翼折る 伝令か         つばさおるでんれいか
もしそれが 彼ならば      もしそれがかれならば
君の背に はためくは      きみのせにはためくは
映し出す 鏡なり        うつしだすかがみなり
澄みわたる その中で      すみわたるそのなかで
ひらひらと 追われては     ひらひらとおわれては
沈み行く 灰のみが       しずみゆくはいのみが
我が心 くもらせる       わがこころくもらせる
絶え間なく 君の手に      たえまなくきみのてに
いつもごと 行き返る      いつもごとゆきかえる




「もう一つの扇」   Éventail de Mademoiselle Mallarmé

                               投稿者訳

夢見人 君ゆえに        
ひたる清き喜び         
知れよかし 巧みなる 絵空事  
我が翼 君の手に 委ねたり   
黄昏のそよ風は         
打ち打ちて 君に寄せ      
囚われの一煽り         
世の果てを一揺るぎ       

目眩 空気震わせ        
燃ゆる抱擁のごと        
空しくも生まれつつ       
遂げられも消えもせで      

天国は寄り難し         
笑みこぼる 口の端       
忍びつつ 滑り込む       
打ち揃う襞の奧         
金の夕陽によどむ        
ばらの岸の王杖         
然有りとて 君の打つ      
腕飾りは きらめく       
白き飛翔 閉ざして             (10音)