L’Asie アジア JEAN FOLLAIN 1903-1971 投稿者訳 2013
学校の窓から
アジア地図が見える
地図の上では
シベリアもインドくらい暑い
そこを昆虫が這っていく
インダスからアムール河へ。
壁の下で 男が
空豆をモーブ色に煮込んだ
シチューを食べている
彼は厳かで
この世にただ一人
Au pays 故郷で
みんなで田舎へ引っこむことにしたんだ
そこで いつものお婆さんが
道ばたで編み物
母親は子どもをそっと揺すり
いいかげんに
お黙り! お黙り!
それから 友だちと遊べば
少女は すぐそこ!もうすぐそこ! 何度もくりかえし、
相方は いつまでも探しているから
こんなに遅くまで ・・・ああ、一日の長かったこと・・・
(ああ、長きかな人生)
じきに木の葉が 夜の黒。
L’assiette 皿
女中の手から 滑り落ちれば
薄い丸皿 空の色
拾い集めよ 屑かけら
さても 主人の食堂では シャンデリアがざわめき
風 しばし止めば
古い学校のあやふやな神話が唱えられ
神まがいの名前を読み上げているのが聞こえてくる。
Plainte ぐち
その日 女は言う、
誰か坊やをだっこして来てちょうだい
重いのよ、もう夜になるわ。
ああ、土付き野菜の頃
葡萄酒蕪の 赤や緑
サンザシに縁取られた畑
甘んじて静まりかえっている空の下
今はもうない時間
それでも その世界は今もあって
その美しさに 見とれてしまう。
Bout du monde 世の果て
ひびわれた大地の
世界の果てで
誰かが アルゴンヌ製の陶器に飾りつけられた花のことを話す
花を染める赤い顔料には
王水で刻んだオランダの古いドゥカート金貨を混ぜるという。
夜が来るのが早いからなあ、ともう一人が答える。
このあいまいな国では
時間は 走って過ぎる。
Tenir un globe 地球儀を手に 245
住人は去り
使い込んだ鋤と 刃こぼれした熊手が
歩き慣れた獣道を
行き来することも もうないだろう
ブロンズ像の足にのせてあった地球儀を
持って来て 少年が
起伏する丘の方に掲げ
くるりと回せば
秋風が 彼の細い手を迂回し
瞬間 彼は目を閉じるだろう
乾いた赤い埃が舞い上がれば
Face
aux osiers 柳に向かって
246
裸の時だけ
三つ編みを解くのだった
どっしりとした 庭の柳に向かい
暗がりに 陶の肌をうかべ
蝋燭は 銅燭台に眠り
彼女は これからもずっと心を費やしていくのだろう
ときめきを胸に
風吹きすさぶ街の
城壁市場の光景とともに
Sans courage 勇気無く 247
家に帰る者には
新たなる勇気がいるだろう
とは言えそこには時間と空間があるだけで
淡い青色の空のどこかで
階段を上りつつ
繰り返し たたき込むように聞こえるのは
「神は死んだ
人間は もういない」
立ち止まれば沈黙に目がくらむ
顔を上げて
屋根裏部屋まで上り続けよう
ほとんどからっぽの
子どもには別だが
La CLEF かぎ
56
革製のロンデルに結わえられた
黒っぽい鍵には
日付の数字がつけられ
白夜の夜
大衆宿の釘に下げられ
眠っている男がそれをつかんだ
泥手袋をはめた手を
木の寝台から外に出して
L’EPINGLE 針 57
波に向かってそびえ立つ街の
外海では
クジラの群れが尾を
雲の下で 一斉に打ち鳴らしている
というのに
耳にとどいたのは
留め針の落ちる音
マントルピースから
寄木細工の床の上に
もうかれこれ何年も磨かれたことのない
FOURMI NOIR. 黒蟻 くろあり 148
両手をポケットにつっこんで 若者が
くろありの世界を見ている
くろありのラッカー色の血
くろありの刺し針
くろありの幼虫は
鳴る鐘の振動に ぷるぷるふるえ
若者のバイオリンは
ケースに横たわり
やがて夜が来て
天の絵葉書に
星を撒き散らす
FELICITE フェリシテ 至福
どんなに小さい コップや腕のひびでも
深い至福の思い出を甦らせてくれます
物というのは有りのまま
か細い背骨をあらわにし
陽のもとに ふいに煌いたかと思えば
宵闇に 姿を消しますが いずれも
それなりに 時を満喫しているのですから
長くも儚くも
椀のひび 時を味わう 今昔
いかに些細な グラスのひびも 遠き思い出 寄せかえす
L'ETENDUE 広がり
けものの皮のようにつやめく
絹の帽子は
男の狭い頭のてっぺんに
ようようとのっかり
腕には女がおさまり
二人のぐるりには 石炭置き場や
山積みの土砂というような
味気ない広がりが描き込まれて行く
人生風景
Quincaillerie JEAN FOLLAIN 1903-1971
Dans une quincaillerie de
détail en province
des hommes vont choisir
des vis et des écrous
et leurs cheveux sont gris et leurs cheveux sont roux
ou roidis ou rebelles.
La large boutique s'emplit d'un air bleuté,
dans son odeur de fer
de jeunes femmes laissent fuir
leur parfum corporel.
Il suffit de toucher verrous et croix de grilles
qu'on vend là virginales
pour sentir le poids du monde inéluctable.
des hommes vont choisir
des vis et des écrous
et leurs cheveux sont gris et leurs cheveux sont roux
ou roidis ou rebelles.
La large boutique s'emplit d'un air bleuté,
dans son odeur de fer
de jeunes femmes laissent fuir
leur parfum corporel.
Il suffit de toucher verrous et croix de grilles
qu'on vend là virginales
pour sentir le poids du monde inéluctable.
Ainsi la quincaillerie vogue vers l'éternel
et vend à satiété
les grands clous qui fulgurent.
Usage du Temps, Gallimard,1941
金物屋 かなものや
田舎の小売り金物屋に
男たちが ビスやナットを見つくろいにやってくる。
ごま塩頭あれば 赤毛あり
あるいは直毛 あるいは癖毛。
広い店は薄青い空気にあふれ
鉄気のにおいに娘たちの残り香がとけ入る。
そこに売られる 真っさらな 差し錠や格子の十字に
一たび手を染めれば 否が応でも
生きる重さを感じるようになる。
かくして 金物屋は 果てしなく漂い
きらめく釘を 飽きるまで 売りさばく。
金物屋2 シャンソン風
村の小売りの 金物屋
ビスやナットを 買いに来る
ごま塩頭に 赤い髪
剛毛あれば 癖毛あり
広がる空気 薄青く
鉄の匂いに 娘らの
甘き残り香 とけいって
店に売られる まっさらな
錠や格子に 手を染めりゃ
生きる重さを 知る羽目に
さても果てなし 金物屋
今日も明日も あさっても
きらめく釘を 売りさばく
L’ASSIETTE
Quand tombe des mains de la servante
la pâle assiette ronde
de la couleur des nuées
il en faut ramasser les débris,
tandis que frémit le lustre
dans la salle à manger des maîtres
et que la vieille école ânonne
une mythologie incertaine
dont on entend
quand le vent cesse
nommer tous les faux dieux.
la pâle assiette ronde
de la couleur des nuées
il en faut ramasser les débris,
tandis que frémit le lustre
dans la salle à manger des maîtres
et que la vieille école ânonne
une mythologie incertaine
dont on entend
quand le vent cesse
nommer tous les faux dieux.
extraits du livre Exister, (Territoire)de Jean
Follain. Éditions Gallimard, 1969. Page 116
皿
女中の手から 滑り落ちれば
薄い丸皿 空の色
拾い集めよ 屑かけら
方や広間では シャンデリアがざわめき
古い学校のあやふやな神話が唱えられ
風 しばし止めば
神まがいの名前を読み上げているのが聞こえてくる。
Au pays
Ils avaient décidé de s’en
aller
au pays
où la même vieille femme
tricote sur le chemin
où la mère
secoue un peu l’enfant
lui disant à la fin des fins
te tairas-tu, te tairas-tu ?
Puis dans le jeu à son amie
la fillette redit tu brûles
et l’autre cherche si longtemps
si tard – ô longue vie –
que bientôt les feuilles sont noires.
extraits du livre Exister , (Territoire) de Jean Follain. Éditions Gallimard, 1969. Page 112
au pays
où la même vieille femme
tricote sur le chemin
où la mère
secoue un peu l’enfant
lui disant à la fin des fins
te tairas-tu, te tairas-tu ?
Puis dans le jeu à son amie
la fillette redit tu brûles
et l’autre cherche si longtemps
si tard – ô longue vie –
que bientôt les feuilles sont noires.
extraits du livre Exister , (Territoire) de Jean Follain. Éditions Gallimard, 1969. Page 112
Au pays 故郷で
みんなで田舎へ引っこむことにしたんだ
そこで いつものお婆さんが
道ばたで編み物
母親は子どもをそっと揺すり
いいかげんに
お黙り! お黙り!
それから 友だちと遊べば
少女は すぐそこ!もうすぐそこ! 何度もくりかえし、
相方は いつまでも探しているから
こんなに遅くまで ・・・
ああ、一日の長かったこと・・・
じきに木の葉が 夜の黒。