Joë BOUSQUET
La
Connaissance du Soir
1947 Gallimard
人の心には知性で開くことのできない牢獄がある
“Le cœur a ses
prisons que l’intélligence n’ouvre pas.”
-------Johandeau
BIOGRAPHIE 1897〜1950
1897年 南仏ラングドック地方のNarbonneに生まれる。父は軍医。
1912年 バカロレア合格 翌年その褒美にイギリス旅行
1914年 パリ 高等商業学校 H.E.C入学
(親への反抗もあり女性との遊びや薬物に手を染めるvoyou)
1916年 召集前に軍へ入隊 第156攻撃隊
(ジェジュイット派のHoudard神父に倣い部下の兵を率いて果敢に参戦)
1917年 Lorraineで戦傷 治癒 復帰(恋愛と絶望の体験)
1918年 5月27日Vaillyで戦傷 脊椎損傷のため以後二度と立ち上がれなくなる(21歳)
Carcassonneの部屋に閉じこもり、言葉の身体となるべく、作家として研鑽の限りを尽くす。美しい絵画(Ernst,Tanguy,Bellmer)を見、すばらしい作品を読む。街が眠る時、彼は目を覚まし、痛みのための阿片を傍らにノートを埋め尽くしていった。
1937年 40歳で運命の女性Germaine21歳に出会う
彼女への終生にわたる書簡は後に出版
1967年 « Lettres à poisson d’or »
編集者JeanPaulhanの支持を得て数々の作品を世に送り出す。
1939年 « Traduit du silence »
1946年 « La meneur de lune »
1945年 « La connaissance du soir » (1947年 新版)
彼の部屋には多くの芸術家が訪れている
Valéry, Gide,Eluard,Aragon,MaxErnst,Simone
Weil,etc.
1950年 4月Germaine結婚 Joë入院
9月28日
Il va mourir dans la nuit à
Carcassonne,dans le soleil obscur qu’il avait créé. (Hubert Juin)
^^^^^^^
学生の頃、純粋に悩んだ。人はなぜ生き、愛するのか、人生には必ず終わりが来るのに、人の心は変わるのに。その答えは謎のまま、運命だとか、生きる本能の歴史、世界自然の大いなる目論見、宇宙に放り出された偶然だなどと、様々な本の言葉をロマンチックに変換してきた。ところがJoëの作品に出会い、彼の愛する人に宛てた書簡が私の胸を叩いた。
1938年10月
「僕が君を思う愛は、それにこたえる君の愛とはちがう。君はあたりまえの人生という場所から、僕に来てくれる。でも僕は他所からだ。傷のおかげというのか、僕は執行猶予つきの人生から君に来る。君が「あなたを愛している」と言うだけで、僕の中に夢幻の世界が生じ、僕は君の心と眼の中に生きることができる。でも、僕は君に僕の存在の全てを明け渡したいし、そうしなければならない。そもそも君に出会う幸運を授かったことが、延いては僕を決定的に運命づけた。僕はmoiになるために君と出会ったのだ。(僕は君を思うことなしに物事を考えられない。)
愛は自覚の無い生命現象に過ぎず、未だとりとめのない生命体が、二人に一つの暖炉をあてがって、そこから一つ、また一つと命が生まれ来るのではないかとさえ思う。
愛の夢にしても、何者かが僕たちの発祥のゆりかごになろうと 僕たちを通じて覗っているせいじゃないのか。そしてこの見えない存在において、僕たちの身体は物音であり、
君はありとあらゆる光、そして僕は思考なのだ・・・」
健康に普通の暮らしをしていると、日常の煩雑な用件に埋没して、何も見えない時期を過ごすことがよくある。それが何かの拍子に停止する。恋愛や人生の大成功、新しい命の誕生、様々な感動もそうだが、反対に怪我や病気、身内の不幸、災害にあっても同様な、いやそれ以上の停止が起こる。その時、苦しみや悲しみを乗りこえて感じるのは生きている喜びだが、どうにも堪えきれない苦痛なら絶望するばかりだ。
ところが、怪我により身体的損傷を受けたJoëは、敢えてその絶望を「普通」にして見せた<naturaliser sa blessure>。そのやり方は、私の今まで出会ったどんな「逆境乗り越え文学」とも違う重みのある暖かさを感じさせた。本のための仕事と言いつつ、それは人に訴えるためでなく、純粋に自分を言葉とともに存在させる試みだった。おそらくJoëは、そうしなければ生きられなかったろう。
リルケは「愛することは尽きぬ油を注ぎ続けて輝くことだ(マルテの手記)」と言うが、Joëは自ら蝋燭となって生きる限りを燃えて燃え尽きた。
ここに紹介する詩は一見、人の愚かさを表すように見える。だが彼は愚かさ、あるいは儚さを否定していない、どころか謳っている。
ジョエ・ブスケの詩と訳詩(投稿者訳)
1.MON FRÈRE OMBRE p.63
Avec ses souriers de pierre
Qu’il tenait à chaque main
Le portier du cimetière
A fait
danser le chemin
Avec ses sabots de cendre
Sur les lèvres d’un amant
Le sonneur est venu prendre
Ce qu’il disait en dormant
L’absence aux souliers de feuilles
Donne son cœur pour toujours
Au seul galant qui la veuille
Le vent qui change les jours
La vieille aux souliers de paille
Hisse un fagot sur ses reins
Et dans une ombre à sa taille
Porte la lune à la main
La nuit tous les pas se mêlent
Ce qui nous mène est perdu
L’air est bleu de tourterelles
Le ciel le vent se sont tus
Et pareil à la colombe
Qui meur sans toucher le sol
Entre l’absence et la tombe
L’oubli reforme son vol
Mais il suivit du murmures
Où tout se berce en mourant
L’amour des choses qui dure
Au cœur d’un mort qui m’attend
「 我が兄弟なる影 」
石の靴を 両の手に持つ 墓の番人
道をたたいて がたがたにする
灰のサボをはく 鐘撞き男
寝物語の 愛の言葉を 口の端から 消しに来る
枯れ葉の靴の「不在」
たった一人 言い寄ってくる色男に
永久の想いをよせている 日々を刷新している風に
わら靴はいた お婆さん
背中に柴を よっこらしょ
その身の丈の 影を見やれば 手にお月様 抱えている
夜 あらゆる足音が混じり合い
われらを導く者は みな消え去る
キジバトのような青い気配に 空も風も 口を噤んだ
地に触れることなく死んでゆく鳩に翼を並べ
忘却は 不在と墓の間を 一から飛び直す
しかし 永遠の眠りに引き込まれながら
すべてが恍惚となる囁きにも堪えて
私を待つ死の内にも 愛のことどもは続いていく
この詩は、出版される7年前の秋、友人を失った哀しみと前後してインスピレーションのままに作られた。(前述の書簡と同時期に手紙に記されている。)
Joëは、喜びも悲しみも慰めも恐怖も希望も絶望も、自分の身一つ心一つには留め置かず
「言葉を心の影にして」マジックのように空中に放り出すので、それぞれの要素は彼のものでなく 読み手のものとなって読み手の心の中に落ちていき、そこで読み手自身によって初めて意味を持つ。彼の人生への共感や同情はあまり意味のないことだ。
なるほどJoëは靴を履いて歩くことができない。しかし私とて同様に別の意味で動かせない足を持っている。なんて私は歩けないやつなんだろう。
その絶望をありのままに受け止め痛み苦しんだあげく、そっと胸に手をあてて彼は再び空を見上げる。空にはすべてがあるから、想い出の灰の翼で飛び直すこともできる。灰の靴を履き 砂の階段を歩く。そして白いページに彼の空を描く。
生きる意味は 自分に何ができるかで決まってしまうのではなく、力を尽くして飛ぶ時あるいは飛んだ後、何を思うか何を心に描くか、なのかもしれない。
墓守は怒っているのだろうか 死に向かう道は知識によって整備されており
だれでも靴を履いてそこへやってくるが(想いを馳せるが)
「死とはそんなものではありませんよ こんな道 とんでもない」
と言って石の靴で打つのだろうか
それとも「いやいや まだここへは来なくていい もう少し生きなさい」とでも言うの?
この詩の中に響く鐘の音に勝てるような真実の言葉があるだろうか。
不在と風は絶妙なパートナーだ。どちらも、いつも有るようで無いようで、一瞬のようで永遠のようで。
老婆は 長く生きている間に たくさんの労苦を背負うことで、あちらの世界に光る賜物を積み上げてきたのだろう。過去や思い出だけが 明日に光る希望となるのかもしれない。そのためには、今日を今を飛び続けなければならない。
2.REFLET
p.58
Une mer bouge autour du monde
L’arbre et son ombre en sont venus
Ravir à des doigts inconnus
La faux qui luit dans l’eau profonde
影(反映)
海が 世界のまわりを うごめき
そこから 樹とその影が やってきて
見知らぬ手指から
水底に きらめく 月の鎌を さらう
3.PASSER p.65
Enfence qui fût dans l’espace
Un vol poursuivi jusqu’au soir
J’appelle ton ombre ὰ voix basse
Avec
la peur de te revoir
Sœur
en deuil de ses robes claires
Ta
fuite est l’oiseau bleu des jours
Que de son chant fait la lumière
Des gestes rêvés par l’amour
C’est par ton charme qu’une fille
D’un corps ébauché dans les cieux
A formé
la larme des villes
Qui s’illuminent dans ses yeux
Et ce fut ton âme de rendre
Mon doute plus que moi vivant
Passerose aux ailes de cendre
Qui m’ouvrais ton cœur dans le vent
「移ろい」
空の限りを 夕暮れまで
飛んで飛び続けた 少年時代
僕が君の影を呼ぶのは 小さな声でだ
君にもう一度会えるなんて 怖さ半分
明るい服は 決して身につけない妹
彼女の逃避は 昼間の「青い鳥」のように
その声だけで
愛が思い描くままの 振る舞いを 光らせる
少女よ あなたがあまりに美しく
それが空という空に 下書きされているから
街は きらきら瞳を輝かせ
光の涙に 暮れるのだ
それは君の魂だった
生身の僕よりきっぱりと 生きる迷いを晴らしてくれる
灰の翼のパスローズ
風の中に君の心を開いて見せてくれないか
^^^^^^^^^^
少年時代の影 それは灰の翼のパスローズ
人はいつも想い出を夢見て 空を見上げる
たとえば 美しい少女を心の空に描く
それで空には いつも いくつもの美しい下絵が描かれているから
夜になると 人々の夢が空に向かい
街灯の光に隠れて きらきらと涙を流すのかもしれない
青い鳥が 陽の光に隠れて暗い色をしているように
過去のバラ色の愛の鳥 パスローズは 灰の翼で
何も無い空を 終わりの時まで吹く風に乗って
何度も飛ぶ 何度でも
それが passer 過ぎていくということ 生きるということ
わからない詩を読む喜びは、そこに何が書かれているか、まずその言葉を作者の
意味で読み取り、あれこれ試行錯誤しながら解き明かしていくこと。
そして、その言葉を介して、彼の心の波が私の心に触れたのを、おしまいにしないで、
もう一度自分の言葉にして生み直し、私の空を飛ばせること。
passer
1.少年時代の飛行は思うさま限りなく、夕方まで、つまり死まで純粋に自由自在。
大人になれば、あれこれ事情や制約があって、そうは飛べない。
だからといって、その影を呼んで(彼が「呼ぶ」とappler nommer 来る、存在
するので)本当に見るのはちょっと怖い気がする。
2.明るい色の服は絶対着ない。それは見せかけの明るさの放棄。
本物の光は強すぎる太陽光線によって消される、あるいは見えにくくなってしまう。
それより、歌だけで光る、つまり詩によって表されるようなものこそ
愛にあふれる者が夢に描く行為を 光輝かせる。ちょうど日中の青い鳥が本当の色を姿 を見せず、その鳴き声だけで、本物の光を放つように。
3.美しい少女の魅力を心の空に思い描くとは、人間の夢やあこがれの象徴。
人々の涙が夜の空に上っていくと、それが街灯イリュミネーションのように、
きらきら輝く。人生の、生きることの魅力charmesが 心であり詩の言葉である
larmeを villesに促し、人々の目を本当の光で輝かせる。eboucheは記憶。
4.123なので、私はその過去(少年時代を象徴す)バラ色の鳥(限りなく自由で
本物の愛の光で 空にあって涙を生む )パスローズを呼び、
共に今この私の空を飛び、詩を書いて 自分の本当の心を見たい。
人生のあらゆる苦しみの中を生き続ける疑いを晴らしたい。
君を愛することを通して、僕は歌い、光を放つことができるから。
☆ Passeroseは 空に向かってどこまでもまっすぐ伸びる立葵の花
全体で円を成す羽衣のような花びら 中心は星形
passer とroseが かけ言葉として選ばれている
☆ 1.ombre vox
2.soeur 3.larme ,cieux 4. ame ailes ,cendre
( jeoのキーワード)
夢や未来は、過去の経験と記憶によって作られる。
赤ちゃんから今日までに習得した言葉によって、私たちは思考し希望し疑いも絶望もする。
だからこそ今も、少年のように思い切り飛んで、本気で愛して光って、
あらゆる魅力に心を動かし、涙しなければならない。
見せかけの光に負けないで夕暮れまで限りなくpasserに参加し続けよう。
この詩で、Joëは私にそう思わせてくれる。
4.PASSANTE
p.67
Elle a promené dans les villes
Le pas qui tremblait sur les eaux
Une chanson la déshabille
Son silence est né d’un oiseau
Elle illumine la lumière
Comme l’étoile du matin
Quand tout le ciel est sa paupière
Embellit le jour qui l’éteint
Mais l’astre d’où le ciel s’envole
Sais-il où nos vœux sont allés
Qand mon cœur bercé de paroles
Se meurt de la chanson qu’il est
Quel mal trouvait-elle à me plaire
Qu’un
aveu me l’ôte si tôt
Mouillant
ses regards de sorcière
Des
pleurs qu’il a pris au ruisseau
Hélas
ne pleurez point madame
Si
j’ai mes jolis soins perdu
Près
d’un enfant aux yeux de femme
Qui
joue à l’amant qui n’est plus
「行く女」
街から街を 巡り巡り
水面にゆらめくような 足どりで
歩くあの人を 歌だけが あらわにする
その沈黙は 一羽の鳥から生まれた
彼女は光を さらに輝かせる
ちょうど 明けの明星がそうするように
天空一帯が そのまぶたに満ちる時
星は自分を消しに来た陽の光を
ひと際 美しくさせるのだ
だが 知っているのか 空を生み出す星よ
我々の願いはどこへ行ってしまったのだろう
言葉に酔いしれるわたしの心は
その星の歌に 命までうばわれそうだ
わたしの気に入るどんな悪さを思いついたのか
涙の河でぬらした 心も溶かす魔法のまなざしで
彼女が ひとこと洩らせば
もう歌は聞こえなくなる
ああ、あなたが泣くにはおよびません
わたしが闇雲に 気の利いた心遣いをしたとしても
女のまなざしを見せる子供の かたわらで
在りもしない愛人を気取っているだけのことなのですから
^^^^^^^^^^^^^
人は音もなく飛ぶ鳥の、鳴き声におどろいてその姿を探す。
知っているはずの人の歌声にも驚かされることがある
歌声は人の本当の姿を表すから。
彼女をこの手に抱きしめようと近寄れば
彼女の愛は私のそれを凌駕する。
明けの星が 夜明けの陽の光をさらに美しくする話は
聞いたことがある。
5.LENDEMAIN
p.69
Le lendemain de l’amour
Bonheur formés de paroles
Ne croyez pas qu’il fait jour
Parce qu’une ombre vous frôle
C’est l’amour sans lendemain
Versant le ciel sous ses ailes
Dans un baiser de ses mains
Qu’une chanson vous rappelle
L’amour poursuit sa clarté
Sur le pré noir des eaux pures
Où son regard s’est prêté
Aux trahisons du murmure
Les pleurs lui parle plus bas
D’un mal que la vie endur
En s’enfermant dans les pas
Dont elle était l’aventure
Dans la voix à qui les pleurs
Font porter le poids de l’âme
Une ombre écarte des fleurs
Et lit le nom d’une femme
Et sur ses lèvres de sœur
Le chant s’éloigne et fiance
Ce qui s’est tu dans le cœur
A ses moissons
de silences
「あくるひ」
愛の 明くる日
しあわせが 口をついて出てくる
だが 夜が明けたとは思うまい
ほら 君には影がよりそう
この愛に 明日はない
広げた翼から 天空をあふれさせ
両手に 口づけを降らせていると
歌が聞こえてくるだろう
澄み渡る水の 暗い海原で
自分の光だけを探し続ける愛は
不実なささやきにも わけ知り顔で 応える
涙が 一番小さな声で話す
人生の堪え忍ぶべき痛みについて
恋する歩みの内に 閉じこもっている限り
その声に涙は 魂の重さを担わせる
影は 花々を押しのけ
その声の中に あの人(あの女)の名前を読み取る
そして その歌声は妹のような唇の上で 遠ざかりつつ
心の内にじっと抱え込まれていた沈黙と一つになる
^^^^^^^^^
禁じられた恋や実らぬ恋を嘆く、ペシミストの歌ではありません。
人生におけるactの意味を言っている。
自分の光を求めて、人は様々な行為に没頭する
しかしすべてはやがて終わり 明日の保証はない
それでも あなたは やむにやまれず 愛して愛して涙する
名前を呼び合って存在を確かなものにする
こうして 求めること失うことへの愛惜が永遠の沈黙へと連なり
この苦しみと喜びによってのみ、世界とあなたは一つになる。
名前を呼べば あの人はいつもそこにいる。影のように。歌のように。
6.PENSEFABLE p.59
Le ciel est un songe innocent
Qui meur des clarté qu’il s’ajoute
Quand le soleil jaunit la route
Dont il est le dernier passant
A force de rire avec elle
L’espoir nous a pris la raison
Dans la nuit qui sort des maisons
Nos étoiles battent des ailes
La terre s’ouvre et sent le pain
Qand la mort des feuilles l’embaume
Le vent ne sait où vont les hommes
Et conte aux ailes de moulins
Que sous des iris d’azur sombre
La mort a caché les yeux noirs
Où chaque larme est le miroir
D’un monde trop lourd pour des ombres
「寓話帳」
空は無邪気な夢想家だ
黄金色に染まる道を
一人で最後まで歩いて行って
自分の黄昏に 焦がれ死ぬ
彼女と大笑いのあげく
期待のあまり 気がふれて
家々から抜け出してきた夜のとばりの中で
わたしたちの星が 羽ばたく
落ち葉が香り立てば
大地は開かれ パンのにおい
風は 人がどこへ行くかも知らないで
風車の羽に 話しかける
その暗い紺青のアイリスの下に
死は 黒い両目を 覆い隠した
その涙の ひとつぶ ひとつぶが
影たちにとって重すぎる世界を映す
鏡なのだ
7.MADRIGAL p.71
Du temps qu’on l’aimait lasse d’elle-même
Elle avait juré d’étre cet amour
Elle en fut le charme et lui le poème
La terre est légère aux serments d’un jour
Le vent pleurait les oiseaux de passage
Berçant les mers sur ses ailes de sel
Je prends l’étoile avec un beau nuage
Quand la page blanche a bu tout le ciel
Dans l’air qui fleurit de l’entendre rire
Marche un vieux cheval couleur de chemin
Connais à son pas la mort qui m’inspire
Et qui vient sans moi demander sa main
「マドリガル」
あんなに愛していたなんて うんざりだわ
この愛に生きると誓っていた彼女は
その愛ゆえに美しく
彼は その愛を詩にした
大地は あの日の誓いに 身も浮き立つほどであった
風は 渡り鳥を 涙で見送る
塩の翼にのせた 海をゆすりながら
白いページが 空一帯を飲み干せば 僕は
美しい雲と一緒に 星をつかみとる
彼女の笑い声に 花もほころぶ風の中を
道に溶け入るような色をした老馬が歩いてくる
その一歩一歩が 僕に終わりを知らせる
僕はもういないのに
ほら来たよ 探していたんだよ 手をかしておくれ
と言わんばかりに
^^^^^^^^
鳥が去る時
風は さようならの代わりに
身を揺すって涙雨を降らせる
風の翼は塩でできている だからその涙はとても塩辛い
僕は白いページに 愛の思いを全部 書く
それが描ききれたら 詩は星になるよ
愛の完成 愛の終わり
彼女の笑い声だけがひびく
すると幻のような 老馬が近づいてくる
出来事を終わりにするため
影のように
何にでも 誰にでも
8.CLOCHES p.72
J’ai quitté mon nid de pierre
Sur un bel oiseau d’airain
Vos douleurs me sont légères
Je suis la mort des marins
J’apprends la tendresse aux hommes
Que j’étreins sans les briser
Je suis l’amour d’un fantôme
Qui se souvient d’un baiser
L’hiver conduit mon cortège
Et pour singer ses façons
J’ai mis ma robe de neige
Je suis la mort des chansons
Les cœurs d’amants pour nous suivre
Otant leurs manteaux de rois
Prennent des robes de givre
Les morts habitent le froid
Dans un haut grenier de pierres
Où la lune nous attend
Au galant que je préfère
Je souris avec les dents
Les baisers que je lui donne
Sont muets comme les lys
Dont la pâleur l’emprisonne
Au fond des jours abolis
Cloches d’or cloche de terre
Sonnez en vain dans le sang
J’ai des ciseaux de lumière
Je suis l’oubli des absents
J’ai semé sur votre face
Les iris couleur de temps
Qu’avec mes ciseaux de glace
Mes mains coupent dans le vent
La fleur sans ombre des larmes
A fait s’ouvrir dans les cieux
Au jour qui jette ses armes
Un ciel plus froid que vos yeux
Ainsi j’efface une voile
Et rends au vent sa pâleur
Qui pleur avec les étoiles
Dont elle effeuille le coeur
「鐘の音」
青銅の美しい鳥のもと 石の住処を去った
君の苦悩など とるに足りない 私は船乗りの亡骸だから
人に優しくするには 人を損なうことなく 抱きしめるのみと知る
ただ一度の口づけを 忘れ得ない 私はファントムの愛だから
冬は わが行列を導く
冬の流儀をまねるため 雪の衣を身にまとう 私は歌の亡骸だから
恋する心根は われらに倣い 王者のマントを脱ぎすて
霜の衣装を身につける 亡骸には 冷たさがつきものだから
高みなる 石造りのサイロでは 月が われらを待ち受ける
粋なまねをしてくれるじゃないか 思わず口がほころぶ
私の捧げた口づけは 白百合の花のごとく押し黙り
その儚さ 青白さゆえに 彼女を失われた日々の内に閉じ込める
黄金の鐘 大地の鐘よ 血潮の中を あてどなく鳴り響け
光のはさみを持っている 私は不在の忘れ形見
あなたの顔に 時の色をしたアイリス(虹彩)を撒いた
ガラスのはさみで風の中から切り取った花だ
だが 涙の影もない花は
刃(やいば)を消し去る陽の光の中で
あなたの目より いっそう冷たい空を
天に向かって 開かせた
こうして 私はベールをはいで 風に儚さpâleurを返す
pâleurは星々と涙しては その心の花びらを摘み取る
^^^^^^^^^^^^^
墓を去った魂が鐘の音に乗って舞いながら天空に旅立つ時、愛の想い出を一言?
私たちの愛した全てが新しい空として 天に吸い込まれて 星の心になる。
9.L’OMBRE SŒUR p.80
Entre à la nuit sans rivages
Si tu n’es toi qu’un passant
L’oubli rendra ton visage
Au cœur d’où rien n’est absent
Ton silence né d’une ombre
Qui l’accroît de tout le ciel
Éclôt l’amour où tu sombres
Aux bras d’un double éternel
Et t’annulant sous ses voiles
Pris à la nuit d’une fleur
Donne des yeux à l’étoile
Dont ton fantôme est le cœur
「姉さん影」
岸辺なき夜に入り
君が ただ通りすがりの人だとしても
忘却は 君を満ち足りた顔にする
君の沈黙は 影から生まれた
影は 空いっぱいに沈黙を増やす
そして愛を孵し その愛の内に君は
過去と未来の両腕
二重の永遠のふところへ 沈み込んで行く
沈黙は 闇のベールで君を覆い隠しながら
夜から花を一本 摘み取る
星に目をやれば
なんとその星の心は 君のファントム
2009年12月5日作成ファイルより M.M.
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