2013年6月28日金曜日

poème de la Chine 千里鶯啼緑映紅



Un printemps de Kônan

Le chant de rossignol sur les vastes horizons
La verdure resplendit au rouge vif des fleures

Le vent tourne les bannières des bars des hameaux
dispersés dans la montagne ou au bord de la rivière

Et les quatre cent quatre-vingt temples dynasties de Nan
Leurs toits ressortiraient sur la brouillard légère



 江南春絶句         江南の春    杜牧(830-853)

千里鶯啼緑映紅
水村山郭酒旗風
南朝四百八十寺
多少楼台煙雨中
  千里鶯啼いて緑紅に映ず
  水村山郭酒旗の風
  南朝四百八十寺
  多少の楼台煙雨の中




月に従い   ジャコテ 


月に従い


今宵 月影の窓辺に佇み
ふと気がつけば 世界が軽くなっていた
何のこだわりもなく
日中 私を捕らえていた あらゆる物が
今はむしろ 私を新たな始まりへ
さし招こうとしているような気がした
水の住処から 内部へ
何か とても弱々しく とても光る
草むらのようなものの方へ

それで私は 何の恐れもなく
草むらの中へ入っていこうとしていた
大地の息吹につつまれようとしていた

月に従い 私は はい、と言って歩き出した








   月影追いて

今宵窓辺に     もの思い
そこはかとなく 身の軽く
世はなべて     みな障りなし

日中に我を    託つもの
うちそろいては 招きつつ
内なる扉    開きつつ

水のよどみを  くぐりぬけ
弱くも光る   草むらは
怖るる由なし  入れよかし
大地の息を   身に受けよ

月影追いて 歩み去る
我が心音の さやけきは 






                                         L’ignorant   p.44   Philippe Jacottet
SUR LES PAS DE LA LUNE

M’étant penché en cette nuit à la fenêtre,
je vis que le monde était devenu légèr
et qu’il n’y avait plus d’obstacles.Tout ce qui
nous retient dans le jour semblait plutôt devoir
me porter maintenant d’une ouverture à l’autre
à l’intérieur d’une demeure d’eau vers quelque chose
de très faible et de très lumineux comme l’herbe :
j’allais entrer dans l’herbe sans aucune peur,
j’allais rendre grâce à la fraîcheur de la terre,
sur le pas de la lune je dis oui et je m’en fus...




2013年6月18日火曜日

poesies japonaises " Tanabata" chanson pour les enfants 七夕 

「七夕」
たなばた(七夕)は 星のお祭りです。日本では7月7日になると、竹の枝に、各人の願いを書いた色紙をかざります。願い事の多くは、芸術技術の上達です。というのも、この祭の起源である伝説の主人公が、機織りだったからです。
それは二つの星、ベガ(織り姫・織女)とオリオン(彦星・牽牛)にまつわる中国の昔話です。織り姫は熟練の機織りで、彦星は牛飼いでした。二人はとても愛し合っていました。
そして、二人とも働き者でした。けれども結婚してからは、全く働かなくなったのです。姫の父である王は、それを怒って二人を天の川をはさんだ二つの星に変え、年に一度だけ会うことを許しました。それが七月七日の夕方からなのです。

« Tanabata » est une fête des étoiles. Le 7 juillet, on décore des branches de bambou avec de petits papiers sur lesquels chacun écrit un vœu. Ces vœux concernent surtout des travaux artistiques dont on souhaite la réalisation. Ce qui s’explique par le fait que cette fête a son origine dans une légende dont l’un des protagonistes est une tisseuse.
Cette histoire vient de Chine. Deux étoiles, Vega et Artail, en sont les protagonistes.
Vega était une princesse, Artail était vacher. Ils sont très amoureux l’un de l’autre. Et sont, l’un et l’autre, très travailleurs. Vega était une excellente tisseuse. Mais après le mariage, ils ont tous les deux cessé de travailler. Ce qui provoque la colère du père de la princesse qui les sépare l’un de l’autre sous la forme de deux étoiles de la voie lactée, et ils ne peuvent plus, selon la loi de leur course, se rencontrer qu’une fois par an.
C’est la nuit de Tanabata.

「七夕」 たなばた

1.笹の葉さらさら 軒端に ゆれる  ささのは さらさら のきばにゆれる
     お星様 きらきら 金 銀 砂子  おほしさま きらきら きんぎんすなご
    Murmure des feuilles de bambou
   qui  frémissent sous l’avant-toit   
   Les étoiles scintillent
   Sable d'or, sable d'argent

2.五色の短冊 私が書いた      ごしきの たんざく わたしが かいた
     お星様きらきら 空から見てる   おほしさま きらきら そらから みてる

   Sur de petits papiers colorés
   J’ai écrit les rêves des enfants
    Les étoiles scintillent
    Et les regardent du haut du ciel                

*traduit par coraboratrice, corrige par M.B
*pour entendre cette chanson 

2013年6月15日土曜日

Jules Supervielle シュペルヴィエルのお話 

         空の二人  

                        ジュール・シュペルヴィエル 

 かつては地上に暮らしていた人間の影たちが、天の広大な空間に勢ぞろいしている。ちょうど生者が地面を歩くように空中を歩く。先史時代を生きた男が言った。
「そうだな、雨風をしのぐ天の洞窟が必要だ。それから火打ち石・・・だがなんとも情けない、おれの回りには固い物なんて一つもない。ここにいるのは亡霊たちと、どこまでも続く空っぽだけだ。」
 現代人であった父親は、鍵穴に注意深く鍵を差し込み、暗い顔つきで入念に扉を閉めた。
「さあ、家に帰ったぞ。今日も一日ご苦労様。夕食をいただいて、ぐっすり眠るとするか。」
翌朝、彼は夜の間に生えたはずのヒゲを、霞のブラシで丁寧に洗った。
 何もかもが影なのだ。洞窟も家も扉も、一時は赤ら顔であったブルジョア気取りの面々も、みんな今では身体を失ったどんよりした影に過ぎず、人々の幻影や、街、河、大陸の追憶を、ただ思い出すばかりだった。というのも、この高みでは、今なお空中ヨーロッパを見ることができた。フランス全土も隅々に至るまで、コタンタンとブルターニュ、分かたれることを望まなかった半島も、そしてノルウェーとそのフィヨルドの最後の一つまで。
 地上で成されることの全てが、名もない小道の敷石一つを取り替えたことさえ、この空のここに映し出される。ほら、あらゆる時代の車たちの魂が走って行く。怠け者の王様の馬車、人力車、小さいトラック、普通列車、担ぎ椅子。そして歩くことしか知らなかった者はひたすら自分の足を使っている。
 電気という物を未だに信じられない者もいて、他の影が、すぐにも分かってもらおうと、架空のスイッチをひねる。これでよく見えるだろう。
 時折、 この星間空間で、唯一聞こえる声がする。いったいどこから聞こるのやら、一人一人の、かつては耳の穴であった所に語りかけてくる。
「よくよく言っておきます。あなたたちは影法師でしかないことを忘れないように。」
しかし誰にもその言葉の意味が知れず、数秒の語りかけも終わってしまえば何も言わなかったのと同じだった。影たちは、ここでもまた、自分たちの考えのまま行動すればいいと信じていた。
 言葉の失われた暮らしだった。囁きさえしない。
 ただ、魂は、こんなにも透明なのだから、会話は話し相手の前に立つだけで事足りる。
例えば、 幼い子の前で、彼がまるで危険な目にあったかのように思い描けば、それだけで、傍らにいる母親はびっくりする。「気をつけて!ころんで死んでしまうわ!」あるいは、人のすぐ側で「昨日、仲間が膝を血だらけにしてやってきたんだ。」 と考えるだけで分かる。
 人に見抜かれてしまう心を隠すには、一目散に走って行って一人になるしかないが、そんなことは、とても無理だ。それでも、ほとんどの者が秘密など思い浮かべることなく、まことにきちんと礼儀正しく自分を表現する習慣を身につけていた。
 見たところ、誰もがずっと同じ年頃のままでいる。それでも親は、そんなことはお構いなしに、将来は何をするつもりなのかと尋ねたり、子供が大きくなったことを何度でも確かめる。親の喜びというものだ。わからないのは、抱き合っている若者たちが、何とも無関心な様子でいることだった。目の不自由だった者も、ここでは皆と同じように見えている。それで、何かを避けようと頭を後ろに持って行く。ところが、ここにはよける物など何もない。
 一方、地上で大恋愛をしたことのある者は、しょっちゅう行く道を変えて、心ときめく巡り会いを願っていた。(後に登場するシャルル・デルソルのこと)
 時折、世間の苦しみをそれほど味わうことなくこちらへやって来たばかりの者たちが、心をかきむしられ、その、ぴくぴく動く灰色の塊を足下に投げつけては長いこと見つめ、地団駄を踏んでいる。しばらくすると、控えめで変わることのないその心は、地上を離れた男の胸の内に、穏やかに居場所を取りもどす。苦しむことも泣くこともここではままならない。
 新人たちを慰めたい。彼らは、どのように影をやっていけばいいのだろう、 一歩も前に踏み出せない。手を挙げて助けを呼ぶこともできず、かといって足を組んでじっとしているわけにもいかない。走ることも、弾みをつけて、あるいは力なく飛ぶこともできない。どれもこれも先輩たちには難なくこなせることなのに、それで、始終あたりを見回しては、財布をなくした人のように、考え込んでいる。
「大丈夫、そのうちなんとかなるさ。」先輩はそう言って慰める。
 いつの日か終わりが来る。
 「悲しむことはないよ、それよりもっとずっと辛いことが、いくらでもあったじゃないか。」そう言って地上を指さす。目にこそ見えないが、この瞬間きっとそこに在るに違いない地上。ほんの幼い、生まれて間もない子供たちでさえ、真夜中にハッと目覚めさせて問うたとしても、それがどこにあるか、ちゃんと知っていた。
 ここでは、耳をそばだてても何の音もしない。男の人も女の人も、灰色の唇を、まるでゆりかごをのぞき込むように見つめながら、そこから終に一声が生まれ出てくるのを、今か今かと待ち望んでいる!
 誰彼の家に集まっては、弦なしのチェロが奏でる、お決まりの曲を聴くこともある。めいめいの空想に任せていれば、室内カルテットなり、一大パイプオルガンなり、フルートのソロや、松林の風音が、土砂降りの雨をくぐり抜けて聞こえて来るのだった。
 ある日、往年の名ピアニストが、幻のピアノに向かう演奏を振る舞おうと、友人たちを招いた。それはバッハに違いない。演奏も作曲も天才的だ。聴かせてくれるだろう。招待客は期待に胸躍らせた。中には彼をバッハだと思った者もいる。正にバッハそのものだった。彼はトッカータとフーガを弾いた。影たちは芸術家の調べに酔いしれ、誰もが本当に聴いたと信じた。曲の終わりに、割れんばかりの拍手がわき起こったが、何の音もしなかった。やはり奇跡は起こらない。みんなそそくさと家に帰って行った。
 とは言え、影たちが最も辛く感じているのは、物をその手につかみ取れないことだった。見渡せば全ての物がただ夢のようにそこにある。せめて自分の爪の先、一本の髪の毛、パンのかけら、何でもいい、どれなら手応えがあるのだろう。
 またある日、散歩好きたちが、いつものように広場をうろうろしていると、長い箱があった。本当に木でできていて真っ白だ。 影たちは願いが強すぎる余り、だまされてばかりいたので、事の重大さに思い至らず、どうせこれも錯覚だとか、これはいつもより良くできた偽物に違いないと思った。ところが驚いたことに、利発で通っている荷造り職人が、これは本物の白木で、地上にある木と寸分違わないと言って、疑り深い者たち一人一人に向き合っては、断言した。
 さあ大変、時代を超えての、ものすごい人だかりだ!ゴート族、山羊、狼、西ゴート族、フン族、プロテスタント、ジャコウネズミ、狐、小ガモ、カトリック、ローマ人、博識家、可愛い子、あらゆるロマンチックとクラシックのごちゃ混ぜ。ピューマ、鷲、てんとう虫までいる。 その箱の回りを、折り重なるように、固唾をのんで取り囲み、今にもくずれんばかり・・・
 「変わる、何かが変わろうとしている!たいへんなことになるぞ!本物の白い木があったと言うことは、太陽だってにわかに輝き始めるかもしれない。そうしてここの、どこから来るとも知れない惨めな光に、きっぱりと取って代わる。ここの光はいつも代わり映えしない、本当は夜なんだか昼なんだか。何にしても空の掃きだめみたいな光だ。ここの空は、そうさ、時には鳥だって上手く飛び込んできたりもする。しかしよーく見てみろ、息も絶え絶えだ。鳥は空っぽの中でじっとしているしかない。いつまでもそうしていると羽毛が塊になって抜け落ちていく。永遠の中を落ちていく。」
 誰一人、箱のふたを開けられず、幾千もの影が見張りに就くと申し出た。何とかしようと、あるいは恐れから、あるいはもっともらしく・・・。仮説はどれも怪しいもので、空のサハラ砂漠を流れるエーテルのせせらぎのように消えていった。
「落ち着くんだ。ばかげた幻覚に捕らわれてどうする。」地上で歳をとってからこっちへ来た者たちは言った。「ただの箱ではないか。どうせ中身は空っぽだ。」
 しかし、希望は希望でそのまま続いた。どこからか一人の影がやってきて、来週の月曜日に(月曜とは言うものの、それがほんとうに月曜なのかどうかはしばしば大議論になるのだが)雄牛が現れてみんなの前で草を食べて見せるだろう、たぶんその光景の終わり頃には鳴き声まで聞こえるに違いない、と言うのだ。
「きれいな黒毛だろうなあ、少し白い斑のある。」
「僕が見たいのは、むしろアングロ・アラブの馬だ。目の前を早足で駆ける。ほんの5分。それさえ見れば、その後ずっと何世紀の間でも幸せでいられるよ。」
「僕は、田舎を気ままにうろつく狐君がいいなあ。セーヌ・エ・マルヌの田園を僕と二人で。」
「ああ、君と二人で?」
影たちが近々、地上にいた頃の身体を取りもどすという噂で持ちきりだ。色も元通り、体重も正確に。
「ねえ。近いうちに私がオフィスに通う姿が見られるわ。シャトレー駅の階段を下りていくのよ。」
「その日、僕は走ってる。ご親切にも駅長の笛が遅れたせいで、僕はリスボン行きの列車を乗り過ごしてしまうんだ。」
 友人を招いて、互いに確かめ合うこともできるだろう。結婚式の日のこと。父の死を告げる電報が届けられた日や、そういった人生の、また別の日のことを。
「ううん、やっぱり、信じろと言うのはむりだよ。」
「どうしてだ?どれもこれも、いかにも在りそうなことじゃないか。物事は十把一絡げにはできないよ。ここは一つ、よーく考えてごらん。」
「みんな、あの不吉な白木の箱のせいだ。」
「あきれたもんだ。考えてもごらんよ。これまでずっと、数え切れない影たちが、ちゃんとした身体を持たずにいるんだよ。」
 ともかく、他の奇跡はもう何も起こらず、箱は広場に置かれたまま、月日だけが過ぎていくにつれ、箱を取り巻く見張りの数も減っていった。そして終には箱だけが、ぽつり残された。
 ちょっとした夢を見ていただけに、失望も大きかった。影たちはこのおぞましいほどの落胆ぶりを隠すため、お互いを避け合うようになった。実際、これほどまで自分の空しさに苦しんだことがあっただろうか。とにかく一人になりたくて、兄は弟を、夫は妻を、あるいは友人を避けた。

 シャルル・デルソルには、見当もつかなかった。いったいどのくらいの間、こうして死んで、本来の意味での自分の影となっているのやら。 彼は、死の数日前から、マルグリット・デルノードの姿を見ていない。彼女はまだ生きているだろうか?ソルボンヌの図書館で彼女を初めて見た日のことならちゃんと覚えている。真ん前に座っていた。ちらっと見ただけで、ブルネットの娘とわかった。15分ほど机に向かい(彼は哲学を学んでいた)もう一度目をやって、彼女の目の色をしっかり見た。10分勉強してから最後に両手首と手を確かめた。 そうして面影を追いながら、とぎれとぎれのひとつひとつを、彼女の全体として生身の姿によせ集めた。
 毎日彼女の正面に席を取ったものの、決して話しかけなかった。身体の劣等感が彼をとても臆病にしていた。彼はいつも、何が何でも真っ先に急いで帰ってしまった。ある時、彼女が本を探しに席を立つと、彼と同じリズムで歩いた。「ああ、僕と同じだ。これで勇気が出そうだ。」シャルル・デルソルは、思わず独り言を言い。言ってしまってから、そんな考えは自分にも彼女にも心外のような気がした。よけいに、声をかけづらくなってしまったじゃないか。
 マルグリットは、自分に注がれる、この無言の眼差しにいらいらした。そこへこの身体的共通点のやりとりがあって、何か誘われているように感じた。
 三月のある日、彼女が大きく窓を開け放っていると、誰かがデルソルに隣から小さな声で話しかけた。
「寒いのなら、窓を閉めて下さいって頼めばいいよ。病み上がりなんだから当然さ。」
「いや、僕は息が詰まりそうなんだ。それだけだ。」そう言ってデルソルは動こうとしなかった。
 それでも彼は寒さに抵抗し、残された力で温もりを逃すまいと、目には見えないわずかな動きで、肩や足の筋肉をふるわせたり、ベストの下に手を入れて胸をこすったりしていた。けれども女子学生は、勉強を邪魔しないで、とでも言うように彼に向かって眼を上げた。
その時彼は、押し黙ったままで、死を感じとっていた。たとえ彼の肩を、胸を、あるいは足をさすりながら、しっかりしろ大丈夫だよと言って聞かせたとしても。そして三日後に、彼は亡くなった。
 この高みへ来てから、デルソルは空中に映し出されたソルボンヌ図書館で勉強を続けていた。
ある日のこと彼のいつもの席の正面に女の影法師が座っていた。それはまさにデルノードのシルエットではないか。
「カバンの持ち方も開け方も、ちょっとぶっきらぼうで変わってない。でも、顔はどうだろう?パリと同じケープを羽織っている。でも地上にいた時ほどこっちが気にならないみたいだ。あれ?どうして窓をあけないのかな?」
透明な魂にとって、思いは全て相手にお見通しであることを、彼は忘れていた。灰色の女の子は近づいてきて影の無言の言葉でこう言った。
「あの、教えて下さい。私が窓を閉めなかったからではありませんか?あの日・・・」
「えっ?違うよ。僕はタクシーにひかれたんだ。」思いを隠すため彼はあわててその場を離れた。
幾日かたつと、二人は連れだって図書館から出てきた。
「お二人さんを見てごらん、まるで恋人同士だよ。思いを一つにするには、同じリズムで歩かなきゃ。ここではそれが役に立つみたいだ。」
空で持つ、彼女の大きなカバンは一番軽い鳥の羽よりなお軽いに決まっているというのに、デルソルは持ってあげるよと言い出した。彼女は笑って、それでも丁重に断った。それが、とうとう、何か滑稽なことだと思いながら彼に持ってほしくなってしまった。なんと言っても、死んでしばらくたつ学生として、それなりの経験を積んでいるはずなのに。
ところが、彼がカバンを手にするとすぐ腕に重さを感じた。そして自分の手が以前のように自分のものであるという感じがしてきた。自分の両手であった所に充足感のような物が漲ってきた。シャルル・デルソルの身体は、なお灰色とは言え赤味を帯び、光沢があって輝くばかりだ。マルグリット・デルノードは思った。
「今日はなんだかちょっと変よ。いつもと感じが違うわ。加減が悪いんじゃないの?」
「冗談だろう。影にそんなことはありえない。」
逆らうように動かすと、手首に強い痛みを感じて、おっと、カバンが手からすべり落ち、本物のキシャラとゲルゼのラテン語辞典が、その重さとページといっしょに飛び出した。
動転して色を失い、女子学生は地上の娘と同じ本物のまつげをパチパチさせた。しかもかつての青い目をしている。顔や他の部分はまだ生気がない。彼女は超人的な力を出した後のようにじっと動かずにいた。するとたちまち、ほら、鼻がここに、唇も、頬も「地上」にいた時よりさらにピンク色に染まった。影なのに裸じゃない。ちゃんと1919年の娘にふさわしい服装だ。
空気は乾いて少し重い。若者と、あでやかな娘の顔から美しい霧の柱が立ち上る。
二人は、あたりの影たちには目もくれず、取りもどした唇を、ずっと重ねていた。それから、新しい喜びのあふれる力に導かれ広場へ向かった。そこには白い木箱が置かれていた。箱は難なく開いた。今では元どおり、かつての力が備わっている二人の手で、ただ持ち上げるだけだ。そこには彼らが地上で持っていたたくさんのものが入っていた。中でも空の絵葉書だ。みごとに明るく澄んで色とりどりに、生き生きとして二人を励ます。

今、二人のまなざしが注がれている場所へ、さあ、思い切って行きなさいといざなうように。

投稿者訳  L'enfant de la haute mer p.83
                 "Les boiteux du ciel"  folio252

2013年6月14日金曜日

ほんとうに最後の詩   ロベール・デスノス Robert Desnos


                                                                                              投稿者訳
最後の詩                     
                  

かくも 激しく君を夢見
かくも 歩き かくも 話し
君の面影を かくも 愛した
それでもう 僕には君が残っていない
あとはもう 影の中の影として
影の百倍も夥しい影となって
行き行きては帰るしかない 
君の晴れやかな日常に


Le dernier poème         Robert Desnos  (1900-1945)


 J'ai rêvé tellement fort de toi,
J'ai tellement marché, tellement parlé,
Tellement aimé ton ombre,
Qu'il ne me reste plus rien de toi,
Il me reste d'être l'ombre parmi les ombres
D'être cent fois plus ombre que l'ombre
D'être l'ombre qui viendra et reviendra

dans ta vie ensoleillée.     




明日   (1942)    
                                 

幾千の歳を重ねようとも 僕にはまだ力があるはず
君を待つ力、 ああ、その望みが明日を感じさせる。
あらゆる歪みに軋みながら老成していく 時よ
嘆くがいい「朝は新しく、また新しきは夕べ。」

だが僕らはもうあまりにも長く 前夜に甘んじている
まんじりと 光を 熱を 抱き続け
ひそひそと 話し 耳をそばだてている
たくさんの 音が すぐに弱まっては掻き消える まるで戯れのように

それでも、夜の果てにあってなお 僕らは(あかし)できる
太陽の輝きと そのあらゆる賜物を。       
眠らないとすれば それは暁を見張るため、
暁は終に 僕らを現在に住まわせるから。       


Demain

Âgé de cent-mille ans, j'aurais encore la force
De t'attendre, o demain pressenti par l'espoir.
Le temps, vieillard souffrant de multiples entorses,
Peut gémir: neuf est le matin, neuf est le soir.
Mais depuis trop de mois nous vivons à la veille,
Nous veillons, nous gardons la lumière et le feu,
Nous parlons à voix basse et nous tendons l'oreille
A maint bruit vite éteint et perdu comme au jeu.
Or, du fond de la nuit, nous témoignons encore
De la splendeur du jour et de tous ses présents.
Si nous ne dormons pas c'est pour guetter l'aurore
Qui prouvera qu'enfin nous vivons au présent.


               (État de veille, 1942)




空の歌  
                  

アルプスの花が 貝に言う 光ってるね

貝は 海に言う 響いているよ

海は 舟に言う ふるえているね

舟は 火に言う 輝きだ

火は 僕に言う 彼女の瞳はもっと輝く

舟は 僕に言う 彼女といる時の君の心はもっとふるえている

海は 僕に言う 彼女の耳元に囁く君の声はもっと響く

貝は 僕に言う 君が空ろな夢の中で願う青はもっときらめく

アルプスの花が 僕に言う 彼女はきれいだね

それで僕は言ってやるんだ

きれいだよ きれいさ ああ もうだめだ




Chant du ciel

La fleur des Alpes disait au coquillage  « tu luis »

Le coquillage disait à la mer : « tu résonnes »
La mer disait au bateau : « tu trembles »
Le bateau disait au feu : « tu brilles »
Le feu me disait : « je brille moins que ses yeux »
Le bateau me disait : « je tremble moins que ton coeur quand elle paraît »
La mer me disait : « je résonne moins que son nom en ton amour »
Le coquillage me disait : « je luis moins que le phosphore du désir dans ton rêve creux »
La fleur des Alpes me disait :« elle est belle »
Je disais : « elle est belle, elle est belle, elle est émouvante »







2013年6月6日木曜日

Poèsies japonaises Tôson Shimazaki 島崎藤村

     藤村詩集                                新潮文庫
 
 島崎藤村 Tôson Shimazaki      traduction de collaboratrice
                      corrigée par D.Z.

若菜集 3. 生のあけぼの より     


 草枕  « voyage »        


夕波くらく鳴く千鳥
われは千鳥にあらねども
心の羽をうちふりて
さみしきかたに飛べるかな

Une voix de pluvier ,sur le lac au crépuscule.
Je ne suis pas un oiseau qui chante en l’air
toutefois,en balancant les aîles de mon cœur ,
je pourrai voler dans les espaces de ma solitude.


若菜集  1. 秋の思い より

初恋   « Premier amour »  
  
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思いけり
やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に ひとこい初めしはじめなり
わがこころなきためいきの その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を 君が情けに酌みしかな
林檎畑の樹の下に おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと 問いたまふこそこひしけれ



Tu viens de te faire un chignon.
Quand je t’ai vu sous les pommiers
tu portais un peigne au front
qui avait de l’éclat fleurissant.

Avec tes mains douces et blanches
tu m’as tendu une pomme,
rouge pâle, le fruit d’automne,
qui m’a fait naître le premier amour.

Le soupir de mon cœur éperdu
caresse tes jolis cheveux
Et je goute un verre de joie
avec ton sourire affectueux.

Dans ce jardin de pommiers
il y a un petit chemin sous les arbres.
Qui a bien pu le tracer pour la première fois?
Ta question m’a de plus ravi .



      
 .            
若菜集  4.森林の逍遥、その他 より

       東西南北 « Aux quatres coins de l’holizon »

男ごころをたとふれば
つよくもくさをふくかぜか
もとよりかぜのみにしあれば
きのふは東けふは西

女ごころをたとふれば
かぜにふかるるくさなれや
もとよりくさのみにしあれば
きのふは南けふは北




Le cœur de l’ homme se compare à un vent
qui souffle fort sur les herbes.
Par nature il n’est qu’un vent inopiné
Hier vers l’est, aujourd’hui vers l’ouest.

Le cœur de la femme se compare à une herbe
qui est exposée au vent à sa guise.
Par nature elle n’est malgré elle qu’une herbe.
Hier vers le sud, aujourd’hui vers le nort.


Philippe Jaccottet フィリップ・ジャコテ 梟・ニンファ・秘密・声

L’encre  serait  de  l’ombre                       

 Notes,proses et poèmes choisis par l’auteur  (1946-2008) 



                                      GALLIMARD 2011

                           

           préface


Je me redresse avec effort et je regarde :
il y a trois lumières,dirait-on.
Celle du ciel,celle qui de là-haut
s’êcoule en moi,s’efface,
et celle dont ma main trace l’ombre sur la page.

L’encre serait de l’ombre.
Ce ciel qui me traverse me surprend.

On voudrait croire que nous sommes tourmentés
pour mieux montrer le ciel.Mais le tourment
l’emporte sur ces envolées,et la pitié
noie tout, brillant d’autant de larmes
que la nuit.
 

インクは影かもしれない            

              はじめに

少しく気を張り 居住まいを正して見ると
どうやら光には三つある。
空の大気の光
天の高みから私の内を流れ行き 次第に弱まっていく光
そして私の手がページに記した影の光。

インクは影なのかもしれない。
私の胸を過ぎり 私に懸かっている空よ。

私たちが責め苦に遭うのは  
空をより知らしめるためだというのならわかる。
だが苦しみは空を 
私たちが空へ向かう飛翔の 
さらに上へと奪い去り、
哀れみが全てを覆い尽くす、
夜にも等しいほどの涙で 光り輝きながら。




1.  1946-1961 


        L’EFFRAIE   ふくろう   梟  

夜は眠れる大都会
そこには風が吹いている・・・遠くから
私の逃げこむ寝床まで やって来る。六月の真夜中。
君は眠り 私は永遠の際まで連れ出され
風がハシバミの木をゆする。呼んでいる
近づいては遠のく、あれは
森を横切って逃げていく光だろうか、それとも
くるくる回る地獄の影たちか。
(夏の夜のこの呼び声について、どれだけのことが言えるだろう、
君の眼についても・・・)たかが、
梟と名の付いた鳥のこと、
ほど近い森の奧から呼びかける。そして既に私たちに漂う
夜明けから腐敗臭、
既にこれほど熱い皮膚の下から 骨がごつごつ突き出し、
その間にも、街かどに星々が沈んでいく。



私もこの世では一人の異邦人なのだから、
君にふしぎな言葉で話しかけるしかない、
きっと君は私の故郷になるだろうから、
私の春になるだろうから、
藁や小枝の山で巣をつくろう、

夜明けの狭間に震える水の住処
私の「夜の優しさ」が芽ぐむ・・・(とは言え今は
恵まれた身体が声を上げながら彼らの愛の内へ沈み込む時間、
少女が泣いている、
寒い庭で。それで君は?君は街にはいない、
夜に会うために君が出歩くことはない
この一時にだけ使える やさしい言葉
本当の語り口が私に甦る・・・)ああ、果実よ
よく熟れた、黄金色の道の源、蔦の庭、
君だけに語りかけよう、今は見ぬ君、我が地よ・・・




憂えるな、来るものは来る!近づいている
すぐそこ!詩の終わりに置かれる言葉というのは、
始まりよりずっと君の最期に近くなる
それは道半ばで留まることなどない。

君が書く間 梟は枝の下で眠るだろう
あるいは一息つくだろう とは よもや思うな。
たとえ君の口が 激しい渇きをも癒す口を
その声もろとも飲み込む時でさえ、
柔らかな口を、たとえ君が力をこめ、君らの絡め合った腕が
びくとも動かぬよう ひしと締め付ける時にさえ、
炎となって混じり合う髪の 陰りの中に、
それはやってくる、神のみぞ知る道を巡り、君ら二人の方へ、
遥か遠くから あるいはすぐ近くから
だが、憂えることはない、一言一言、言葉は老いていく。 




         NINFA    



En ce jardin la voix des eaux ne tarit pas,
est-ce une blanchisseuse ou les nymphes d’un bas,
ma voix n’arrive pas à se mêler à celles
qui me frôlent, me fuient et passent infidèles,
il ne me rester que ces roser s’effeuillant
dans l’herbe où toute voix se tait avec le temps.

----Les nymphes, les ruieeseaux,images où se complaire !
Mais qui cherche autre chose ici qu’une voix claire,
une fille cachée? Je n’ai rien invinté:
voici le cien qui dort,les oiseaux rassemblés,
les ouvriers courbés devant les saules frêles
brûlant comme des feux ; la servante les hèle
au bout de la journée…La leur et ma jeunesse
s’usent comme un roseau, à la même vitesse,
pour nous tous mars approche...Et je ne rêvais pas
quand j’entendis, après si longtemps,cette voix
me venir du fond de ce jardin,l’unuque,
la plus douce dans ce concert... « ---O Dominique !
Jamais je n’aurais cru te retrouver ici,
parmi ces gents...---Tais-toi.Je ne suis plus ceci
que je fus... »Je la vis saluer avec grâce
nos hôtes,puis s’en aller comme les eaux s’effacent,
quittant le parc,alors que le soleil se perd,
et c’est déjà vers cinq heurs,dans l’hiver.

http://www.italia.it/es/media/video/ninfa-el-jardin-de-los-encantos.html



    ニンファ(庭園)


この庭に水音の絶えることなく
その声は洗濯の女 あるいは地下のニンフ
その声に私の声は重なるべくもない
私に触れ、後追いさせ、つれなく行ってしまう
残るは散りゆく薔薇のみ
時の移ろいに全ての声が眠る草の陰に。

ニンフ、せせらぎ、そこにイメージは一人(自ずと)完結する!
とは言え他に何を見いだせよう、ただ明るい声が聞こえる、
少女が隠れている?  作り話じゃない。
ここには 犬が眠り 鳥が集い
庭師たちは たおやかな柳の前に身を屈めながら 
火のように燃えている 手伝いの女が呼び声を上げる
今日はもう終わりだよ・・・彼らと私の青春は
かくて時を同じく 葦のようにすり減らされ
誰にも等しく 三月が間近に迫る
・・・夢を見ていたわけではない
長い間をおいて、あの声が聞こえた
庭の奧から、ただ一声、
この宴にいちばん優しい声だ・・ « ・・・ああ、ドミニク!
まさかこんなところで君に又会おうとは
他でもない君に・・・。
・・・黙って、わたしはもうかつてのわたしではありません・・・ »
彼女は うやうやしくお客たちにあいさつした、
そしてまるで水が引くように行ってしまう、
庭園を去っていく、いっしょに太陽も消えていく、
もう5時近くなる、時は冬。












LE SECRET

Fragile est le trésor des oiseaux.Toutefois
puisse-t-il scintiller toujours dans la lumiere !
Telle humide forêt peut -être en a la garde,
il m’a semblé qu’un vent de mer nous y guidait,
nous le voyions de dos devant nous conmme une ombre...
Cependant, même à qui chemine à mon côté,
même à ce chant je ne dirai ce qu’on devine
dans l’amoureuse nuit.Ne faut-il pas plutô
laisser monter aux murs le silencieux lierre
de peur qu’un mot de trop ne sépare nos bouches
et que le monde merveilleux ne tombe en ruine ?

Ce qui change même la mort en ligne blanche
au petit jour, l’oiseau le dit à ceux qui l’écoute.



「秘密」  


壊れやすいのが 鳥たちの宝 だとしても
いつも光の中に煌めくことができますように!

こんな湿った森の中に 秘密は 守られているのだろう  
私たちを その森へと誘うのは 海風かもしれない
まるで影のような風の後ろ姿を すぐ目の前に見ていた。

それでも 寄り添って歩む あなたにも その歌にさえも
人が愛の夜に何を見るか 言うわけにはいかない。
というよりむしろ むやみな言葉を口にしてしまえば
あなたと私の唇は引き離され 至福の境地を
台無しにしてしまう・・・
そんな恐れは 無口な蔦になって 
壁を這い上っていくにまかせるがいい。

暁に 何が死さえも白線に変えてしまうのか 
鳥は歌い告げる 耳を澄ましてごらん。

(暁に 耳ある者へ鳥は告ぐ 世の果てはただ一条の白)






                            朝焼け



 LA VOIX


Qui chante là quand toute voix se tait ?Qui chante
avec cette voix sourde et pure un si beau chant ?
Serait-ce hors de la ville,à Robinson,dans un
jardin couvert de neige ? Ou est-ce là tout près,
quelqu’un qui ne se doutait pas qu’on l’écoutât ?

Ne soyons pas impatients de le savoir
puisque le jour n’est pas autrement précédé
par l’invisible oiseau.Mais faisons seulement
silence. Une voix monte, et comme un vent de mars
aux bois vieillis porte leur force,elle nous vient
sans larmes,souriant plutôt devant la mort.

Qui chantait là quand notre lampe s’est éteinte ?
Nul ne sait.Mais seul peut entendre le cœur
qui ne cherche la possession ni la victoire.



     「声」

声という声が押し黙る時 そこで歌うのは誰だ
くぐもった それでいて透き通る声で こんなに美しい歌を
もしかすると ロビンソン辺り
人里離れた 雪深い庭で?
あるいはそこはすぐ近く 
人に聴かれているとは思いもよらず?

それを知ろうと躍起(やっき)になるまい
一日は 見えない鳥に引き継がれていくより他ないのだから
ただじっと黙っていよう
一声が 立ち上る
それは 
三月の風が 古い森に自分らの力を漲らせるように 
私たちの所までやってくる
涙も無く 死を前にかえって微笑みさえ浮かべて

私たちの灯火(ともしび)が消えた時 歌っていたのは誰だ?  
誰も知らない。ただ聴こえはする
何もほしがらず 何人にも勝ろうとしない心にだけ


                    宮澤みよ子訳