FRUITS
果樹園の部屋には 時の行程の彩る球体が下げられ
時の灯すランプともなれば その光は香りであって然り
それぞれの枝の下で ほっと息をつけば
芳しい鞭が 早く早くと せかす
草々の合間に顔を出す真珠たち
その螺鈿は 霧が近づくほど ばら色に染まっていく
着飾った葉叢のランジュが減るほどに ペンダントが重くなる
幾千の緑の瞼の下で
いつまで眠っているのか!
そしてこの熱
大急ぎでかき立てた熱が
彼らを 貪るような眼にする!
ゆったりと行く 雲の影
夕食後の眠気にも似た
羽毛の女神たち
(素朴なイメージ あるいは翼下に なお 真の反映を保ちながら)
白鳥でも ただの雲でもかまわない
私に忠告してくれたのは 君たち物憂げな鳥だった
そして今 わたしはそれをみつめている
ランジュと 鼈甲の鍵の 真ん中に
君の取り乱した 羽毛の下に
八月の雷
ゆれる たてがみ
おしろいを ふりはらい
あまりに大胆なので
飾りのレースも重くなる
(眠る果実)
青い青い夢の時を過ごす 果実たち
空想仮面をつけて 眠っているような
火の付いた 麦わらの中
晩夏の名残の 塵の中
煌びやかな夜
泉まで 炎をまとうような一時
鳩さんの 悩みの種は
朝一番の 取りかかり
夜がつなぐものを 断ち切って
木の葉 海のきらめき
それは 散り散りに光を放つ「時」
その炎と水とが 谷に溶け込み
山々は 空中に懸かり
心が にわかに 霞む
とてつもない高みへ 抱き上げられたように
誰一人 留まることも 入ることもできない
そう そこへ向かって 私は走った
夜が来る
盗賊のように
そのあと 私は 忍耐の道具とされる葦を
再び手にとった
(夜明けの音)
吹き過ぎる 風よりも儚い 心象
私の眠っていた イリスの泡
何が 閉じ また 開くのだろう
あいまいな この息吹を生み出しながら
ページをめくる音 衣擦れの音 木刀の舞い?
かくも遠くからの 道具の音 せいぜい
有るか 無しかの 扇の音なのかもしれない
一時 死は 影をひそめる
欲望そのものさえ 忘れられる
夜明けの 入り口を前に
折りたたまれるもの また
広げられるもの のために
Oiseaux fleurs et fruits Philippe Jaccottet
"L'encre serait de l'ombre" Gallimard 2011 p.149-156
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