「 鳥 花 果実 」 フィリップ・ジャコテ
夜明け
暁に 高く葦の笛
地を這うごとく 微かな息吹で
我が身から他の身へと誰が
このように移りゆくのだろう
源の山から逃れた 泉、
熾?
石たちの間には 鳥の声一つ無く
ただ 遥か遠く 鎚音が響く
花
花という花は
身をよせたふりをする 夜にすぎない
とはいえ 香りの立ち上る そこへ
踏み込もうなど思いもよらず
だからこそ こんなにも私を惑わせ
その閉じた扉の前で
いつまでも眠らせてはくれない
まなざしを刺し止める そこから
あらゆる色 あらゆる命が生まれ来る
この世は 見えない火事の頂にすぎない
緑の葉叢に守られた
生まれたての熾の園を歩めば
唇に 焼けつくような 炭火
(夜明け)
暁に 高く透るは 麦の笛
その息吹 かそけきままに 地を這いて
我が身から 他の身へ移る 術ならむ
燠火とて 山よりいずる 泉なれ
岩間には 鳥の声なく
見上ぐれば
槌音はるか 耳に響けり
(花)
うわべのみ 身をよす花の 闇ならむ
彼の花の 香り舞い立つ 元なれば
入らんとは 思いも掛けぬ 際なれば
かく惑い かく目覚めては 夜もすがら
ひたすらに 閉じたる扉 胸に抱き
まなざしを 引かるるままに 刺し止めて
色なりと 命なりとも 生まれ来る
人の世は 見えざる火事の頂や
緑なす 熾の園 さまよう我の
唇に 焼けつく炭火 咲くを知る
L'encre serait de l'ombre 2011 Gallimard p.137