見える (雲の下で考えたこと) フィリップ・ジャコテ
子供らが 校庭にびっしり生えた草の上を
大声で叫びながら駆けていくのが 見える
背高の木々は じっと立ち
九月 十時の陽の光は ほとばしる滝のようにして
彼方で 星々を煌めかせている巨大な鉄床から
彼らを守りぬく
これほど 臆病で内気な人間が
本当に 氷河の上を果てしなく歩かなければならないのか
たった一人 裸足で
子供の頃に祈った祈りさえ 覚束ないまま
この冷たさに 凍りつく心という
終わりなき責め苦を受けながら
幾年も経て
思考は かくも痩せ衰え
心は かくも弱まり
渡し守が身に迫ろうとも 払うべき小銭すらない
だが 私は 草と早瀬を保ち
舟が沈まないように 身軽なままでいた
偽りを知らぬ 子供の口のような
円い鏡に 彼女は近よる
その身に同じく擦り切れた 青い部屋着をまとい
時の ゆるゆると燃える炎のもとで
その髪も いずれ灰の色となろう
夜明けの太陽は さらにその影を濃くする
白く枠を塗られた(虫除け 魔除け)
窓の向こうで
老いて白髪となった男が
手紙か地方紙の上に 身を屈め
傍らの壁を 灰色の蔦が這いつたう
蔦よ 石灰の壁よ
朝風から 長々しい夜々から
あるいは もう一つの永遠なる闇から
彼を守ってくれないか
誰かが 水面を木の葉のレース模様に織り上げたのか
どんなに目を懲らしても
触れてみたいその手さえ見つからぬ
部屋も 機織りも 布も
いっさいが消え失せてしまえば
ぬれた地面に 足跡が見つかるにちがいない
まだ しばらくは 光の繭にくるまれている
だがその繭が破れる時には(しだいに あるいは突然に)
たくさんの眼をつけたクジャクサンのような
*(オオクジャクサン=蛾の一種 別名 死者の頭)
羽を生やしていられるだろうか
その闇 その冷たさに身をさらすべく
過ぎ行くうちに これらの事が見える
(たとえこの手がわずかに震え、心臓はがたつくとしても)
他の物たちも おなじ空の下にある
つややかな庭のカボチャは まるで 太陽の卵
老いの色に咲く花は 菫
夏の終わりの光 これが
まばゆいほどの
他の何者かの影にすぎないとしても
ほとんど幾らも驚くに能わない
L'encre serait l'ombre 2011 p.309
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